グレープフルーツ after bath
バスローブに身を包んだシャボナンが部屋に入ってくる。シャボニーナはIpadをタップしている。
シャボナン 「あー気持ちよかった。夏場はシャワーは欠かせないね。ん?何見てんの?」(シャボニーナの手元を覗きこむ)
シャボニーナ 「グレープフルーツの話をしていたら果物が欲しくなってきちゃって」
シャボナン 「お、いいね。買おうよ、グレープフルーツ」
シャボニーナ 「ええ、ほかにも果物を頼んでおくわ」
シャボナン 「ブドウもいいなー、巨峰とか。できれば種のないやつ」(思い出したように)「あと、そうだ、マンゴーも食べたい」
シャボニーナ 「マンゴー?」(高い声をあげる)「マンゴーは高いでしょ?」
シャボナン 「え?でも宮殿の予算で買えばいいじゃん」
シャボニーナ (タメ息をついて)「あのね、勘違いしてもらっちゃ困るんだけど、宮殿にはいくらでもお金があるわけじゃないの。王室とはいっても限られた予算の中でやりくりしてるのよ」
シャボナン 「えー、でもマンゴーぐらいよくない?」
シャボニーナ 「ダメよ、無駄遣いは。もう少し余裕のあるときにね」
シャボナン 「あー、ガッカリ」(残念そうな表情。小声で)「どんな王室なんだ」
シャボニーナ 「ところで」(とシャボナンを見やる)
シャボナン 「ん…?」
シャボニーナ 「グレープフルーツの使い心地はどうだったかしら?」
シャボナン 「ああ」(うなずいて)「そりゃ、よかったよ」
シャボニーナ 「あのね…前回も言わなかったかしら?どうよかったのか教えてくれない?」
シャボナン 「ああ、そうだった。忘れてた。え~と」(少し考えた後に人差し指を立て)「そう、びっくりしたことがある。実はさ、あの石鹸、包装フィルムから出した時に匂いをかいだんだけどさ、正直グレープフルーツの匂いなんてしなかった。これのどこがグレープフルーツ?って思った。いや、かぐ人によっては分かるのかもしれないけど、少なくともボクには感じられなかった」
シャボニーナ 「あなた去年の夏、副鼻腔炎になってるからね」
シャボナン 「そうそう、副鼻腔炎に。だから鼻が利かなくって…って違うよ!そんなことが言いたいんじゃない」
シャボニーナ 「ゴメンなさい、冗談よ」
シャボナン 「ちぇっ、ニーナだってそういうこと言うじゃないか。人は自分のことになると分からないんだよ」
シャボニーナ (肩をすくめ)「ごめんなさい。悪かったわ、シャボナン」
シャボナン 「まったく頼むよ…で、どこまで言ったっけ?」
シャボニーナ 「グレープフルーツの匂いがしなかったってとこ」
シャボナン 「そうだ、そう。本当に開けた時には匂いはほとんどしなかったんだ。それがさ」(少し間をあける)「最初にゆっくりと石鹸を湿らせてさ、両手で丁寧に丁寧に泡立てた。色、形、手触りを愛でながらゆっくりとね。ちなみにこれは固形石鹸を一番最初に使う時の儀式みたいなものなんだ、ボクの中では。いい石鹸を使えることに感謝してゆっくりと泡を立てる。ニーナはそんなことするかい?」
シャボニーナ 「え?私?私は…正直そこまではしないわ」
シャボナン 「そうなんだ?石鹸の妖精なのに?」
シャボニーナ 「そう言われると困るけど」
シャボナン 「女の人の方が現実的だからね。そういうことはしないのかもしれない」
シャボニーナ 「よく分からないわ。…で、どうだったの?その後は」
シャボナン 「そう、うん、それでそのゆっくりと泡立てた泡で顔を洗ったんだ。泡触りなんかを確かめながら。そうしたらさ」
シャボニーナ (うなずく)
シャボナン 「なんと、匂いがするんだよ、グレープフルーツの匂いが、はっきりと」
シャボニーナ 「あら」
シャボナン (興奮して)「もうビックリだよ。グレープフルーツの、あの酸っぱいような匂いがはっきりとかぎとれるんだ。そのままの状態では感じなかった匂いが、泡立てて使った時にはっきりと感じられるんだよ。開けてビックリ玉手箱。まるで手品のようだったよ」
シャボニーナ 「そんなことがあるのね」
シャボナン 「本当だね。すごいと思う。石鹸自体からはそれほど匂いはしないのに、使った時に蝶の舞のように湧きあがってくる匂い。いや、香りといったほうがいいかな。これはもう芸術品だね」
シャボニーナ 「ベタ褒めね」
シャボナン 「本当にこれはちょっとした感動があるよ。ニーナも是非使ってみてほしいな」
シャボニーナ 「分かったわ、今度使ってみる。あとはどうだったかしら?例のスクラブはどんな感じ?」
シャボナン 「スクラブか」(顔をかしげる)「そう言われてみればスクラブは特に何も感じなかったな。タオルに泡立てる時、確かに黒いつぶつぶがついてきたけど、洗顔フォームにあるようなざらざら感もなかった。洗顔フォームはスクラブの存在を感じるからね、ザラッとした。それに比べるとこのスクラブはその存在を感じなかった。黒い色の割にマイルドなのかもしれない」
シャボニーナ 「そういえば、『ボディー用化粧石鹸』って表示されてたけど、顔を洗ってどうだったのかしら?」
シャボナン 「全然問題なし。顔も平気だった。といっても1回使っただけだからね、長く使っているうちに分かってくることもあるのかもしれない。でもボクとしては身体だけに使うのはもったいない気がする。洗顔に使ってこそあのグレープフルーツの香りが楽しめるんだからね」
シャボニーナ 「ずいぶん匂いが気に入ったみたいね」
シャボナン 「もともと柑橘類好きだからね。これまでそんな石鹸を使ったことなかったし」
シャボニーナ 「100点満点?」
シャボナン 「そう!…と言いたいところだけど、実は98点」
シャボニーナ 「何なのかしら、その2点の減点は?」
シャボナン 「まあ、本当はどうでもいいことなんだけどさ…」(言いよどむ)「ちょっと貸してね」(と言って傍らのIpadを手に取に取って出ていく。しばらくして戻ってくる)
シャボニーナ (不思議そうに)「どうしたの?」
シャボナン 「ほら」(Ipadを差し出す。写真が写っている)
シャボニーナ 「わざわざ写真撮ってきたの?石鹸の」
シャボナン (うなずいて)「どうだい、これ?」
シャボニーナ 「どうって…」
シャボナン 「こんにゃくみたいじゃない?」
シャボニーナ (驚いて)「えっ?」
シャボナン 「色はちょっと違うけどさ、これ、こんにゃくだよ。いや、実物は違うよ。実物はもう少し石鹸らしく見える。これはあくまで写真の上での話なんだけれど、それにしたってボクにはどうしてもこれがこんにゃくに見える。もちろんこんにゃくが悪いわけじゃないけどさ、でも石鹸に気品を求めるボクとしてはやっぱり石鹸がこんにゃくに見えるっていうのはちょっと…」(困った顔)
シャボニーナ (吹き出しながら)「あなたもバカねえ」(笑う)