シャボン&ピース

シャボン宮殿での日々の一コマ

サボン・ド・マルセイユ・ビッグバー before bath

 

 

 

ソファ室でシャボナンがコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。そこへ右側のドアからシャボニーナがごそごそと入ってくる。両手に大きなバッグ。

シャボニーナ 「ちょっと、シャボナン、手伝ってよ」

シャボナン  「う、うん…」(と言いつつ新聞を読み続ける)

シャボニーナ 「シャボナン!?聞こえてる!?」

シャボナン  「なんだよー」(新聞から顔を上げ)「せっかく昨日、ベイスターズが勝った記事を読んでいたのに」

シャボニーナ 「スポーツ新聞なんていつでも読めるでしょ?それより手伝ってよ、これ。重いんだから」

シャボナン  「へいへい」(立ち上がってシャボニーナの方へ行く)「ありゃ、何だい、その大きなバッグは?」

シャボニーナ 「シャボン・バッグよ」

シャボナン  「えー?シャボン・バッグはそんなに大きくないじゃないか」

シャボニーナ 「いいから早く持って」(ドサッとバッグをシャボナンに渡す)「レディに重いものを持たせちゃダメでしょ?」

シャボナン  「誰がレディだよ?」(バッグを肩から下げながら)「それにしてもどうしてこんなに大きいの?いつものバッグはどうしたの?」

シャボニーナ 「いつものバッグじゃ小さいのよ、今日の石鹸を入れるには。あー、重かった」(両手を振る)

シャボナン  「ええ?でもだって石鹸だろ?いつものバッグで十分じゃないか」

シャボニーナ 「ところがそうじゃないのよ。今日はこのバッグじゃないとダメなの」

シャボナン  (バッグをあらためて見て)「…だってこれ、ボストンバッグじゃん。石鹸1ダースくらい入ってるの?」

シャボニーナ 「ううん、1個よ」

シャボナン  「1個?この中に?」

シャボニーナ 「そう」

シャボナン  「だ、だってめちゃくちゃ重いよ、一体何が入ってるの?」

シャボニーナ 「だから石鹸だってば」

シャボナン  「えー?」(おそるおそるバッグをテーブルに置く)

シャボニーナ (ソファに腰かけ)「じゃあ、早速開けてみましょうか」(ファスナーを開ける)「さあ、シャボナン、取り出してみて」

シャボナン  「えー、また?なんかドッキリとかじゃない?」(右手を入れる)

シャボニーナ 「何言ってんのよ。それより片手じゃ無理だから」

シャボナン  「片手じゃ無理?…どういうこと?」(左手もバッグに入れながら)「うわ、重い。…なんだ、こりゃ?木の箱?」(そう言ってその箱を取り出す。長さ50センチ、幅と高さ10センチの長方形の木箱。ゆっくりとテーブルに置く)

シャボナン  「これ、石鹸なの?」(そう言って覗きこむ。木箱の上の部分が透明なプラスチックになっていて中が見える。中には緑色の石鹸と思しき大きな塊が入っている)

シャボニーナ (得意そうに)「すごいでしょ」

シャボナン  「すごいも何も…これは一体何?」

シャボニーナ 「サボン・ド・マルセイユ・ビッグバー」

シャボナン  「サボン・ド…ビッグバー…」(両手でその箱を抱える)「確かにビッグとしか言いようがない…」

シャボニーナ 「だって2.5キロもあるんだから」

シャボナン  「に、2.5キロ?…こんな石鹸あるの?…信じられない!」

シャボニーナ 「ふふふ、出してごらんなさいよ」

 シャボナンは箱の上部についているスライド式の蓋をゆっくりと上にずらして開けた。そして中に納まっている緑色の大きなブロック状のものを取り出した。大きさにして長さ40センチ、幅は8センチくらい。

 

 

 

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シャボナン  「これ、どうやって使うの?」

シャボニーナ 「切るのよ」

シャボナン  「切る?」

 呆気にとられているシャボナンの前で、シャボニーナは箱の底からワイヤーのようなものを取り出した。両端には取っ手がついている。

シャボニーナ 「これをここにまきつけて」(石鹸の下をくぐらせる)「あとはこの取っ手を引っ張るの。粘土みたいに切れるわ」

シャボナン  「…これは驚いた。こんな石鹸初めて見たよ」

シャボニーナ 「どこにでもあるわけじゃないのよ」

シャボナン  「うーん、これはまさに石鹸の王様だね」

シャボニーナ 「そうよ、これは17世紀のフランスで、王様や貴族たちが使っていたものなの。ほら、ちょっと切ってみて」

シャボナン  (ワイヤーを使って2センチくらいの厚さに切る)「へぇ~、結構簡単に切れるんだ。面白い」

シャボニーナ 「買ってしばらくの間はね。でも時間がたつと固くなって切れなくなってしまうから要注意よ」

シャボナン  「買ったらすぐに切れってことだね」(そう言って切った石鹸の匂いをかぐ)「うわっ」(石鹸を見つめる)「これ、匂いがすごい」

シャボニーナ 「そうね、少しばかり匂いがあるかも」

シャボナン  「少しばかり?」(もう一度匂いをかぐ)「いや、これは結構強い匂いじゃない?」

シャボニーナ 「そうかもしれないわね。でもあなた以前に、浴室に入って使いだすと石鹸の匂いはさほど気にならなくなるって、いいこと言っていたじゃない。まずは使ってみてごらんなさいよ」

シャボナン  「うーん…確かにそうは言ったけど」(匂いをかぎながら)「これで顔洗うのは気が進まないな」

シャボニーナ (呆れた様子で)「何言ってんのよ、さっきから男のくせに匂い匂いって。細かいこと気にしないでまずは使ってみなさいって言ってるでしょ?」

シャボナン (首をすくめ)「わ、分かったよ、使えばいいんだろ、使えば」