シャボン&ピース

シャボン宮殿での日々の一コマ

グレープフルーツ before bath

 

 

 

(夏。連日の真夏日が続く。シャボナンがハンカチで汗を拭きながらソファ室に入ってくる。部屋の中央のソファではいつものようにシャボニーナが紅茶を飲んでいる)


シャボナン  「ひゃー、暑い暑い!もうこの暑さは異常だね。外にいるだけで干からびちゃいそうだよ…お?」(テーブルの上にあるグラスに手を伸ばす)「ありがとう。冷たいもの用意しておいてくれたんだね」

シャボニーナ 「まあね、別にそこまでしてあげるつもりはないんだけど、あんまりいつまでも暑い暑いって言われちゃかなわないから。ただのミネラルウオーターよ」(そう言って紅茶を飲む)

シャボナン  (立ったままグラスを飲み干す)「あー、ウマイ!これで少し生き返ったよ。ありがとう」(シャボニーナを見て)「しかし、キミはこの暑いのによく温かい紅茶なんて飲めるね。まったく信じられないよ」

シャボニーナ (カップを置いて)「ここは外ほど暑くないから。それに冷たいものを飲みだすときりがないし、温かいものならゆっくりといただけるでしょ?」

シャボナン  「いや、ボクは夏に温かいものなんていただきたくないね」

シャボニーナ 「それがあなたの子供なところね」

シャボナン  「…子供で結構。それよりシャワーを浴びてくる」(部屋を出ていこうとする)

シャボニーナ 「ちょっと待って」

シャボナン  (振り返って)「ん?」

シャボニーナ (シャボナンの足元を見て)「汗が垂れてる」

シャボナン  「え?」(視線を落とす)「や、ホントだ」

シャボニーナ 「ちゃんと拭いてって」

シャボナン  「あ、う、うん」(と言って足でこする)

シャボニーナ 「ちょっと、ダメよ、そんなの。ちゃんと拭いて」

シャボナン  「あ、でも、ここにいるとますます汗が垂れるからさ。先にシャワーを…」(と言って去ろうとする)

シャボニーナ 「ちょっと待ってったら」

シャボナン  (面倒くさそうに)「まだ何かあるの?」

シャボニーナ (テーブルの下からバッグを取り出す)

シャボナン  「うわ、出た、得意の石鹸バッグ」

シャボニーナ (ジロリとにらむ)「今日の石鹸を用意してあげたわ、子供なあなたのための」

シャボナン  「えー、別にいいんだけどな」(ハンカチをポケットにしまう)「この前のカレンデュラクリームもまだあるし」

シャボニーナ 「あのね、シャボナン、分かってるかもしれないけど、固形石鹸は用途に応じて使い分ければいいの。何も一つの石けんをずーっと使い続ける必要はないのよ。朝起きた時はこれ、夜眠る前の時はこれ、運動をして汗をかいた時はこれ、という具合にそれぞれ使い分けたっていいの。だから今のあなただったらすごく汗をかいているからカレンデュラクリームよりもうちょっとさっぱり感が強いものがいいのよ」

シャボナン  「ふーん。で、どんな石鹸が出てくるの?」(と言ってソファに腰かける)

シャボニーナ 「これよ」(バッグから石鹸を取り出し、テーブルの上に置く)

 

 

 

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シャボナン  (石鹸を手に取って)「うわあ、これ、グレープフルーツじゃん!しかも赤いの」

シャボニーナ 「ピンクグレープフルーツよ」

シャボナン  「うまそー。ボク、柑橘類好きなんだよ」(パッケージの裏を見て)「あれ?よく見たらこれ、『ジョン&ダイアナ』じゃん。カレンデュラ・クリームと同じだ」

シャボニーナ 「ちゃんと覚えてたみたいね」

シャボナン  「そりゃあね。そうか、どおりでなんか見たことあると思った。…ニーナはここの石鹸が好きなの?」

シャボニーナ 「別に特別そういうわけじゃないけど」

シャボナン  「でも2回も続くじゃん」

シャボニーナ 「たまたまよ」

シャボナン  (ニヤリとシャボニーナを見て)「…ひょっとして、何かもらってるとか?ジョン&ダイアナさんから…なんてね、ハハハ」

シャボニーナ (小さくタメ息をつく)「…つまんないこと言うわね。そんなわけないでしょ?」

シャボナン  「いや、まあ冗談だよ」

シャボニーナ 「冗談ならもう少し面白いものにしてほしいわ…それにね」(少しコワイ顔をする)「よく何かを言った後、すぐに冗談だよって取り消す人がいるけど、でもその言葉はすでに相手に伝わっているのよ。分かる?それによって相手は何かを感じているの。取り消すくらいだからきっといい内容じゃないわよね?ひょっとしたら、イヤだなあと感じたり、傷ついたり、悲しい気持ちになっているかもしれないじゃない?後で取り消すくらいならそんなこと始めから言わなきゃいいのよ」

シャボナン  (目をそらして)「別に…そんなつもりじゃなかったんだ。ゴメン…」

シャボニーナ 「いいのよ、私はただ一般論として言っただけ。それより、今のあなたみたいに汗をかいた時ならこの石鹸はピッタリだと思うわ」

シャボナン  (顔を上げ)「そうだね。そんな気がする」(石鹸を眺め)「でもこれ、写真のピンクグレープフルーツと石鹸自体の色があまり一致しないね。結構地味な色だ。言われないとグレープフルーツとは分からないな」

シャボニーナ 「そうね、ピンクの色は出てないわね」

シャボナン  「外の皮の色なんだろうね」(石鹸をひっくり返して見て)「あと、なんだろう、全体にごま塩みたいな黒いつぶつぶがある」

シャボニーナ 「それは裏に書いてあるわ。読んでみて」

シャボナン  「本当?…何々?…『ピンクグレープフルーツの香りとアンズ種子、ネトル、チャノキの葉の3種のスクラブがお肌をさっぱりと洗い上げます』…そうか、これはスクラブの粒なのか。ということは毛穴の汚れなんかがよく落ちるってことだね」(間)「でもどんな感じだろう?よく洗顔フォームなんかにはスクラブ配合ってものがあるけど、あれはこんな黒いつぶつぶじゃなかった気がする。もっと中身の色と一体化していたような気がするんだけど…」

シャボニーナ 「そうね、そうかもしれない」

シャボナン  「黒い粒のスクラブか。これで顔洗ったらどうなるんだろう。それにアンズはともかく、ネトルとかチャノキって聞いたことないな。どれどれ」(傍らのIpadで調べだす)「…え~と、『アンズの種子は杏仁(きょうにん)といわれる咳止めや、風邪の予防の生薬に使われます』。へえ、薬にもなるんだ。初めて聞いた。あとネトルは…『ハーブの一種。日本では〈西洋イラクサ〉という。ヒスタミンという成分に抗アレルギー作用があり、花粉症などのアレルギー体質の人に効果的』。なんと、花粉症にいいのか、覚えとこ。あと、チャノキ…『ツバキ科。葉を加工したものが緑茶やウーロン茶、紅茶になる製茶用の作物』…これは飲み物に使われるんだ、ふーん」

シャボニーナ 「いかが?」

シャボナン  「変わった組み合わせだね、グレープフルーツに咳止め薬と抗アレルギー剤とお茶だよ。きっと何度も試行錯誤を繰り返して作ったんだろうなって気がする。どんな効果があるのか、使うのが楽しみになりそう」

シャボニーナ 「よかったわね」

シャボナン  「でも考えてみると、スクラブの入った固形石鹸って珍しくない?洗顔フォームならいくらでもあるけど」

シャボニーナ 「そうね」

シャボナン  「そもそもよく売られている洗顔フォームのスクラブは何からできているんだろう?」

シャボニーナ 「いろいろあるみたいよ。自然なものではこんにゃくや米ぬかがスクラブとして使われているものもあるんだって」

シャボナン  「へぇー、こんにゃく?ずいぶん優しそうなスクラブだね」

シャボニーナ 「そうね。いずれにしてもすごくたくさんの種類があるわ」

シャボナン  「スクラブ=洗顔フォーム、みたいなところもあるもんね。でもこのグレープフルーツは顔に限らず全身を洗うんだよね。どんな感じがするか楽しみだ」

シャボニーナ 「ちょっと待って、シャボナン。裏の説明をよく読んでみて」

シャボナン  「え?どうして?」(裏返して文字を追う)「…あ」

シャボニーナ 「なんて書いてあるかしら?」

シャボナン  「…これ、ボディー用石鹸って書いてあるよ!」

シャボニーナ 「でしょ?」

シャボナン  「でしょ?って…じゃあ、スクラブなのに顔は洗わないの、これ?」

シャボニーナ 「そこは分からないわ。ただね、この前のカレンデュラ・クリームには『化粧石けん』って書かれてるのよ」

シャボナン  「つまり用途が分かれていると?カレンデュラ・クリームは顔身体OKだけど、このグレープフルーツは身体専用だと?そういうこと?」

シャボニーナ 「悪いけど私も分からない」(首を振る)「そこはあなたが実際に使って確かめてみて」

シャボナン  「うーん…わざわざボディー用って書いてあるってことは顔洗っちゃまずいのかなあ。でも身体洗うのにスクラブなんて必要なのかなあ」

シャボニーナ 「大丈夫よ。あなたの場合は顔も身体もおんなじだから。どっちを洗っても平気、心配しないで」

シャボナン  「ちょっと待って。それ、どういう意味?」

シャボニーナ (床を見て)「ほら、ちょっと、シャボナン、また汗が下に垂れてるじゃない。いいから早くシャワー浴びてきなさいよ。床が汚れるわ」(追い立てる)

シャボナン  (あきらめたように)「はいはい、分かったよ。行くよ、そんなに言わなくても。…やれやれ」(部屋を出ていく)